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東京地方裁判所 平成11年(ワ)7972号 判決 2000年6月30日

原告

エービーテトラパック

右代表者

【A】

右訴訟代理人弁護士

日野修男

右補佐人弁理士

【B】

【C】

被告

凸版印刷株式会社

右代表者代表取締役

【D】

被告

森乳業株式会社

右代表者代表取締役

【E】

被告ら訴訟代理人弁護士

竹田稔

勝田裕子

被告ら補佐人弁理士

【F】

【G】

【H】

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、それぞれ別紙原告物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。

二  被告らは、その占有する別紙原告物件目録記載の物件を廃棄せよ。

三  被告らは、原告に対し、連帯して、金八九六〇万円及びこれに対する平成一一年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第6項記載の発明を「本件発明」という。また、本件特許権に係る明細書(甲一)を、「本件明細書」という。)を有している。

登録番号 第二七二六〇三六号

発明の名称 パック容器の開口構造

出願日 昭和六〇年三月二〇日

登録日 平成九年一二月五日

優先権主張番号 八四〇一五五八ー五

優先日 昭和五九年三月二一日

優先権主張国 スウェーデン王国

特許請求の範囲第6項

「液体内容物に使用され、紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層とを含むパックラミネート材料により、全体的または部分的に作られている形式のパック容器用の開口構造であって、予め設けられた注ぎ口(7)と、該注ぎ口(7)の上部に付着された引きはがしカバーストリップとを有する開口構造において、前記パックラミネート材料(1)のキャリア層(2)に設けられた所定の形状と大きさを持つ第一の孔と、該キャリア層(2)の各側に接合され、ガス遮断材料と防水材料との少なくとも一方からなる層を含む熱可塑性層(3,4,6)であって、前記第一の孔があけられた区域では、前記熱可塑性層が互いに対面して、キャリア層(2)の第一の孔の縁(12)から間隔をおいて熱溶着シールされている熱可塑性層(3,4,6)と、前記第一の孔と同じ位置のシールされた熱可塑性層(3,4,6)に該第一の孔より僅かに小さくなるようにあけられて形成され、前記パックラミネート材料(1)の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3,4,6)の残部により縁取られた注ぎ口(7)と、前記注ぎ口(7)を覆って前記パックラミネート材料(1)の外部に引きはがせるようにシールされた外側のバーストリップ(8)と、を有することを特徴とするパック容器の開口構造。」

2  本件発明の構成要件は、次のとおり分説される(弁論の全趣旨)。

(一) 液体内容物に使用され、紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層とを含むパックラミネート材料により、全体的または部分的に作られている形式のパック容器用の開口構造であって、予め設けられた注ぎ口(7)と、該注ぎ口(7)の上部に付着された引きはがしカバーストリップとを有する開口構造において、

(二) 前記パックラミネート材料(1)のキャリア層(2)に設けられた所定の形状と大きさを持つ第一の孔と、

(三)(1) 該キャリア層(2)の各側に接合され、ガス遮断材料と防水材料との少なくとも一方からなる層を含む熱可塑性層(3,4,6)であって、

(2) 前記第一の孔があけられた区域では、前記熱可塑性層が互いに対面して、キャリア層(2)の第一の孔の縁(12)から間隔をおいて熱溶着シールされている熱可塑性層(3,4,6)と、

(四) 前記第一の孔と同じ位置のシールされた熱可塑性層(3,4,6)に該第一の孔より僅かに小さくなるようにあけられて形成され、前記パックラミネート材料(1)の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3,4,6)の残部により縁取られた注ぎ口(7)と、

(五) 前記注ぎ口(7)を覆って前記パックラミネート材料(1)の外部に引きはがせるようにシールされた外側のカバーストリップ(8)と、

(六) を有することを特徴とするパック容器の開口構造。

3  被告らは、共同して、液体内容物を充填するためのパック容器を製造販売している。

4  被告らの製造、販売しているパック容器は、右構成要件のうち(一)を充足する。

二  本件は、本件特許権を有する原告が、被告らに対し、別紙原告物件目録記載のパック容器は本件発明の技術的範囲に属するから、右パック容器の製造及び販売は右特許権の侵害であると主張して、右製造及び販売の差止め、右パック容器の廃棄並びに右侵害による損害の賠償を求める事案である。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  被告らの製造販売しているパック容器の特定

2  熱可塑性層(6)が本件発明の必須要件か

3  公知技術による限定解釈

4  被告らの製造販売しているパック容器が構成要件(二)を充足するか

5  被告らの製造販売しているパック容器が構成要件(三)を充足するか

6  被告らの製造販売しているパック容器が構成要件(四)を充足するか

7  被告らの製造販売しているパック容器が構成要件(五)を充足するか

8  損害の発生及び額

二  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

被告らの製造販売しているパック容器は、別紙原告物件目録のとおりに特定される。

(被告らの主張)

被告らの製造販売しているパック容器は、別紙被告物件目録のとおりに特定される。

2  争点2について

(原告の主張)

本件特許請求の範囲第6項の「熱可塑性層(3,4,6)」の記載は、次のとおり、「熱可塑性層(3,4)」と、符号(6)を省いて解釈することができるから、被告らの製造販売しているパック容器に熱可塑性層(6)が存するかどうかは、これが本件発明の技術的範囲に属するかどうかとは関係がない。

(一) 特許法及び同法施行規則は、特許請求の範囲の記載に図面中の符号を使用することを定めているが、その目的は、発明の技術的創作の内容をより理解しやすくするための補助的手段として図面中の符号を使用することにある。このように、図面中の符号は補助的手段にすぎないから、当該発明の要旨となる技術的内容は、符号を用いて図示されたもののみに限定解釈されるべきではない。

(二) 本件特許の願書に添付された図面は、いずれも金属ホイル層(5)を構成に含む開口構造を図示したものであるが、本件発明は、金属ホイル層(5)を構成要素として含まないものであり、また、本件発明は、熱可塑性層の数について何ら数値限定を付していないから、金属ホイル層(5)を含む実施例において使用された符号(6)を省いて解釈することができる。

(被告らの主張)

(一) 特許請求の範囲に記載された符号が発明の技術的範囲の確定にどのような意味を持つかは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明を参酌して定めるべきであり、符号が補助的機能をもつにすぎないと決めつけることはできない。

本件特許請求の範囲の記載や、本件明細書の実施例、図面によると、本件発明において、熱可塑性層(6)を要件としないと解する余地はない。

(二) 本件特許の請求項6の実施態様項である請求項8及び10に「熱可塑性層(6)」との記載があるが、右各項から「熱可塑性層(6)」の記載を削除すると、右各項がどの熱可塑性層の構成と他の部材の構成との関係を特定したものか不明になる。したがって、本件発明においては、熱可塑性層(6)は必須の要件であり、右各項は、熱可塑性層(6)と他の部材との関係をさらに技術的、具体的に限定したものというべきである。

(三) 本件特許の請求項1は、請求項6と同様に金属ホイル層(5)を構成に含まないにもかかわらず、熱可塑性層は、「熱可塑性層(3,4)」と記載されている。

仮に、図面中の符号が、理解の便宜を図るためのものにすぎないとすると、請求項6においても、「熱可塑性層(3,4)」と記載すれば足りるのであって、にもかかわらず、請求項1と異なり、「熱可塑性層(3,4,6)」と記載されていることからすると、熱可塑性層(6)に意味があるものと解さざるを得ない。

(四) 被告らの製造販売しているパック容器には、熱可塑性層(6)は存しない。

3  争点3について

(被告らの主張)

液体内容物を収容する容器において、被告らの製造販売しているパック容器のように、別部材(窓材)を用いて開口端面の防水状態を維持する構成は、本件特許出願前に公知であった。

本件明細書にも、「本発明の他の目的は、内側のカバー層を用いなくてもガス遮断性と防水性が得られるように注ぎ口の縁を保護してある、開口構造を提供することにある。」と記載されており、本件発明が、別部材のカバー層を用いない開口構造に関するものであることは明らかである。

したがって、本件発明の技術的範囲は、別部材のカバー層を用いる公知技術を含まないように、限定解釈すべきである。

しかるところ、被告らの製造販売しているパック容器は、別部材のカバー層である窓材(15')を用いているから、本件発明の技術的範囲に属しない。

(原告の主張)

本件特許出願時に、被告らの製造販売しているパック容器と同様の公知技術があったことは否認する。

また、本件明細書において、「内側のカバー層を用いなくても」との記載があるからといって、本件発明が、いかなる別部材のカバー層をも一切用いないものであるとの結論を導くことはできない。

したがって、本件発明の技術的範囲は、別部材のカバー層を用いる公知技術を含まないように、限定解釈すべきであるということにはならない。

4  争点4について

(原告の主張)

被告らの製造販売しているパック容器の第一の孔は、パックラミネート材料(1')のキャリア層(2')に設けられているから、本件発明の構成要件(二)を充足する。

(被告らの主張)

被告らの製造販売しているパック容器の第一の孔は、パックラミネート材料(1')のキャリア層(2')とその上層のポリエチレンとインキよりなる層(3')との間に設けられているから、本件発明の構成要件(二)を充足しない。

5  争点5について

(原告の主張)

(一) 被告らの製造販売しているパック容器の窓材(15')は、防水性を有する熱可塑性層であり、また、上部被覆材(3')によって上部を被覆されたキャリア層と「接合」されている。

右窓材が、右キャリア層に、直接「接合」されていないとしても、本件発明は、キャリア層の各側に複数の熱可塑性層が存在する場合を想定しており、その場合、全ての熱可塑性層がキャリア層に直接接合することはありえない。したがって、「接合」とは、キャリア層に直接接合される場合に限らず、他の被覆層を解して接合されている場合も含むと解すべきである。

また、下部被膜材(4')は、ガス遮断性及び防水性を有する熱可塑性層であり、キャリア層(2')の下側に接合されている。

したがって、被告らの製造販売しているパック容器は、構成要件(三)(1)を充足する。

(二) 右パック容器の窓材(15')と下部被膜材(4')は、第一の孔があけられた区域で互いに対面し、右キャリア層(2')の第一の孔の縁(12')から間隔をおいて、熱溶着シールされている。

したがって、右パック容器は、構成要件(三)(2)を充足する。

(被告らの主張)

「接合」とは、「つぎあわすこと」、「二つの物体を結合させること」をいうところ、被告らの製造販売しているパック容器の窓材(15')は、キャリア層(2')の上に接合している上部被覆材(3')のさらに上面に設けられているものであって、キャリア層自体には接合されていないから、構成要件(三)(1)の「キャリア層(2)の各側に接合され」ている「熱可塑性層(3)」に当たらない。

したがって、被告らの製造販売しているパック容器は、構成要件(三)を充足しない。

6  争点6について

(原告の主張)

構成要件(四)の「パックラミネート材料の外側」とは、パックラミネート材料自体の外側部分を指すのではなく、パックラミネート材料の外側に位置するものを指すというべきである。

被告らの製造販売しているパック容器の注ぎ口(7')は、第一の孔と同じ位置のシールされた熱可塑性層に第一の孔より僅かに小さくなるようにあけられて形成され、パックラミネート材料(1')の外側の互いにシールされた窓材(15')と下部被膜材(4')の残部により縁取られている。

したがって、被告らの製造販売しているパック容器は、構成要件(四)を充足する。

(被告らの主張)

被告らの製造販売しているパック容器の窓材(15')は、前記5のとおり、構成要件(三)の「熱可塑性層(3)」に当たらないから、構成要件(四)の「熱可塑性層(3)」にも当たらない。

また、構成要件(四)の文言や、本件明細書の「パックラミネート材料の熱可塑性層(3,4,6)は」(7欄四九及び五〇行)との記載からすると、「パックラミネート材料の外側」とは、パックラミネート材料自体の外側部分を指すものであるが、右窓材は、パックラミネート材料ではないから、「パックラミネート材料の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3)」を充足しない。

7  争点7について

(原告の主張)

被告らの製造販売しているパック容器のカバーストリップ(8')は、注ぎ口(7')を覆って、パックラミネート材料(1')の外部にひきはがせるようにシールされているから、構成要件(五)を充足する。

(被告らの主張)

被告らの製造販売しているパック容器のカバーストリップ(8')は、窓材(15')の外部に引きはがせるようにシールされているところ、窓材(15')は、パックラミネート材料ではないから、構成要件(五)を充足しない。

8  争点8について

(原告の主張)

(一) 被告らが平成九年一二月五日から本訴提起までの間に製造販売した別紙原告物件目録記載のパック容器は、八九六〇万個を下らない。

(二) 右パック容器一個当たりの販売価格は二五円を下らない。

(三) 本件特許の実施料率は四パーセントを下らない。

(四) したがって、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額は、八九六〇万円を下らない。

(被告らの認否)

損害の発生及び額は争う。

第四当裁判所の判断

一  争点1について

1  被告らの製造販売しているパック容器の構造が、別紙物件目録の図面のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  右パック容器の構造説明については、次の(一)ないし(三)の事実と弁論の全趣旨によると、別紙物件目録の物件の開口構造の構成のとおりであると認められる(以下、右目録記載のパック容器を「被告製品」という。)。

(一) '②について

当事者間に争いがない別紙物件目録の図面と弁論の全趣旨によると、被告製品は、パックラミネート材料を構成するキャリア層(2')のみならず、上部被覆層(3')にも第一の孔が設けられていることが認められる。

(二) '④について

後記二2のとおり、窓材(15')は、パックラミネート材料の外側にはないことが認められる。

(三) '⑤について

後記三のとおり、カバーストリップ(8')は、パックラミネート材料(1')の外部にひきはがせるようにシールされているものと認められる。

二  争点5、6について

1(一)  証拠(甲一)によると、本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載があることが認められる。

(1) 従来の技術

返却の不要な形式のパック容器は、ミルク、ジュースおよびワインといった液体食品をパッケージするために広範囲に使用されている。一般にはパック容器は予め製造されてあるラミネートパック材料から作られている。前記ラミネートパック材料は、例えば紙のような繊維状材料のキャリア層を備えている。前記キャリア層は少なくとも一方の側を、通常では両側を、例えばポリエチレンの薄い熱可塑性材料からなる防水層で覆われている。この種のパックラミネート材料は全体の厚みが約〇・四ミリメートルであるため非常に可撓性があり、折り曲げと加熱シールを行なうことで、所望の形状例えば平行六面体形状をしたパック容器に組み立てられるようになっている。また、パック容器は、一般に、パック容器壁の注ぎ口を覆って防水状態にシールされた例えば引き裂きまたは切断部あるいは引きはがしカバーストリップ(いわゆる引っ張りタブ)といったある種の形の開口構造を備えている。材料に予め打ち抜き加工された注ぎ口と、この注ぎ口を覆って防水状態に設けられた、引きはがしカバーストリップとを持つ形式の開口構造は、取り扱いが簡単で事前にパック材料に取り付けておくことができる多くの利点がある。すなわち、パック材料は、箇々のパック容器に組み立てる以前に既にウエブの形に作られており、従ってコストが安い。しかし、液体内容物を詰める際、孔を打ち抜くことで露出したパックラミネート材料の縁を、適当な方法で内容物から保護する必要がある。保護しないと、繊維状キャリア層が内容物を吸収し、ラミネート材料が溶けて内部強度が低下し外観も損われる。従って、吸収を防ぐためにこの種のパック容器には外側のカバーストリップ以外にも例えば熱可塑性材料からなる内側の保護層を設けることがよくある。前記内側の保護層は内容物に面したパックラミネート材料の側面に置かれ注ぎ口並びにこの注ぎ口の廻りを覆うようになっている。カバー層は注ぎ口を介してカバーストリップにシールされ、カバーストリップを引きはがすことでカバー層を破り、注ぎ口を通じて内容物を注ぎ出すことができるようになっている。しかし、予め覆われているラミネート材料の切断縁が露出されているため、注ぎ出す際に内容物が切断縁に接触してしまいある程度の吸収がおこる。この作用は衛生的にも美観的にも好ましいことではない。

例えば、殺菌されたミルクのような無菌内容物をパッケージ詰めする際、外観の美しいパッケージが用いられる。前述したパック容器は、ほとんどのものが同じ構造と形状をしている。しかし、本明細書で言うパックラミネート材料は一般には一つまたは一つ以上の新たな層を備え、ラミネート材料のガス遮断性を高めるようになっている。通常、ガス遮断層として、例えばアルミニウムホイルのような金属ホイルが使用されている。前記金属ホイルはラミネート材料の内部に設けられ、例えばポリエチレンのような熱可塑性材料の別に設けた層により覆われている。ここで特に重要なことは、密封されたパック容器に内容物を詰める時だけでなく、開いたパック容器から内容物を注ぎ出したりあるいは内容物を残したままにしておく際、金属ホイルと内容物とが接触するのを防止することである。このことは酸化タイプの内容物例えばジュースやワインの場合特に必要とされている。これら内容物が金属ホイルとの接触によって、食品の味覚を悪くする化学変化を起こすためである。このことはパック容器を開封するまでにまたは注ぎ出した後にでも、パック容器に内容物を残したまま長期間保管する場合にも同じことがいえる。注ぎ口の廻りに付着した内溶液の残液、金属ホイルに長時間接触した後の残液は、パック容器に滴化して戻り、また何れの場合も、内容物を注ぎ出す度に同じことが繰り返される。

予め開けられた注ぎ口と引きはがしカバーストリップを備えた無菌パック容器に関して、前述した問題を解消する様々な解決策が試みられているが、何れも比較的複雑であり、またラミネートストリップの形態をした内側のカバー層を備えている。前記ラミネートストリップは内容物と注ぎ口の切断縁とが接触するのを防ぐだけでなく、内容物と前記切断縁との間に充分なガス遮断層を形成する必要がある。このように構成しないと、切断縁とパックラミネート材料の外側の熱可塑性層を通じて周囲の外気との間でガス交換が生じることがあるためである。また、ラミネート材料のガス遮断層(金属ホイル)はラミネート材料の内側に配置されているためである。従って、周知のガス遮断防水内側ストリップはガス遮断層として働くポリビニリデンクロライドの層を備えている。この層はEVA(エチレンビニールアルコール)の中間シール層を介して両側をポリエチレンで被覆されている。そうしたストリップは比較的価格が高く、しかも二つの欠点のあることが判明した。すなわち、一方ではパック容器を開口する際に異なったストリップ層が互いに剥離してしまい、カバーストリップを引きはがす際このカバーストリップに特定の層だけが付着してはがれる。このため他の層が残って内容物を注ぐのを阻害することがある。他方では、内側層またはストリップを被せる際パックラミネート材料の切断縁と相対する位置に極く小さい穴(いわゆるピンホール)が形成されることである。この現象は当該区域のストリップを延伸工程に晒らし、同時にラミネート材料の中間の熱可塑性層並びに注ぎ口を介して外側のカバーストリップに熱溶着することによって生じる。

(2) 問題点を解決するための手段

本発明の目的は無菌パック用に適していて、周知の開口構造に関連して説明したような欠点の生じない、前述した形式の開口構造を提供することにある。本発明の他の目的は内側のカバー層を用いなくてもガス遮断性と防水性が得られるように注ぎ口の縁を保護してある、開口構造を提供することにある。本発明のさらに他の目的は無菌食品用のパック容器に求められる非常に高度の要求事項を満たせる、開口構造を提供することにある。

これらの目的並びに他の目的は本発明によって達成された。すなわち、本発明は本明細書の冒頭に記載した形式の開口構造において、注ぎ口の方向に向いたキャリア層の縁が、該キャリア層の両側に設けられ該注ぎ口の方向に張り出された熱可塑性層により、該縁から間隔をおいて覆われており、これら熱可塑性層は、互いに対面して合わさり防水状態に接着され、該注ぎ口が対面して合わさった熱可塑性層に、少なくとも該防水状態の接着を残して、孔をあけて形成され、カバーストリップと外側の熱可塑性層との間で該注ぎ口の廻りにシールを形成していることを特徴とする。また、本発明は、本明細書の冒頭に記載した形式の開口構造において、パックラミネート材料のキャリア層に設けられた所定の形状と大きさを持つ第一の孔と、該キャリア層の各側に接合され、ガス遮断材料と防水材料との少なくとも一方からなる層を含む熱可塑性層であって、前記第一の孔があけられた区域では、前記熱可塑性層が互いに対面して、キャリア層の第一の孔の縁から間隔をおいて熱溶着シールされている熱可塑性層と、前記第一の孔と同じ位置のシールされた熱可塑性層に該第一の孔より僅かに小さくなるようにあけられて形成され、前記パックラミネート材料の外側の互いにシールされた熱可塑性層の残部により縁取られた注ぎ口と、前記注ぎ口を覆って前記パックラミネート材料の外部に引きはがせるようにシールされた外側のバーストリップとを有することを特徴とする。

本発明に係る開口構造の構成により、カバーストリップを引きはがしてパック容器が開いた後においても高い防水性が保証され注き口の廻りの区域でパックラミネート材料のキャリア層に内容物が吸収されるのを防止し、この開口構造をガス遮断層を持つパックラミネート材料に用いる場合、高いガス遮断性が得られ、内容物とガス遮断層とが接触するのを阻止できるようになる。

(二)  証拠(甲一)によると、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、別紙図1ないし3のものが示されている。これらの実施例においては、第一の孔はキャリア層のみに設けられており、また、パックラミネート材料の熱可塑性層3、4、6が互いに防水状態で接合され、それらが注ぎ口を覆うことなく、注ぎ口の廻りにシール11を形成している。

(三)  右(一)、(二)で認定したところに証拠(甲一)を総合すると、本件発明のパックラミネート材料は、それを組み立てることによってパック容器が形成されるパック容器の材料であって、紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層を含んでいること、右パック容器に液体内容物を詰める際、孔を打ち抜くことで露出したパックラミネート材料の縁を、適当な方法で内容物から保護する必要があること、内容物を注ぎ出したりする際にも、パックラミネート材料の縁を内容物と接触しないようにする必要があること、従来からこの問題を解消するために様々な解決策が試みられてきたが、いずれも比較的複雑であり、また、パックラミネート材料とは別部材である内側のカバー層を備えていること、本件発明は、従来の開口構造とは異なる構造によって、パックラミネート材料の縁と内容物が接触しないようにしたものであって、内側のカバー層を用いなくても、右目的を達成できるものであること、実施例として、第一の孔がキャリア層のみに設けられており、パックラミネート材料の熱可塑性層が互いに防水状態で接合され、それらが注ぎ口を覆うことなく、注ぎ口の廻りにシールを形成しているものだけが示されていること、本件明細書には熱可塑性層がパックラミネート材料と別部材であってもよい旨の記載はないこと、以上の事実が認められる。

2  争点5、6について

(一) 本件発明は、構成要件(一)で、パックラミネート材料に、紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層を含むとしたうえ、構成要件(二)で、パックラミネート材料のキャリア層に第一の孔が設けられているとしていること、右1認定のとおり、実施例として、第一の孔がキャリア層のみに設けられているものだけが示されていることからすると、構成要件(二)の「第一の孔」とは、パックラミネート材料を構成する層のうち、キャリア層に設けられた孔であって、熱可塑性材料の層には設けられていないものと認められる。そして、本件発明は、構成要件(三)(四)のとおり、互いにシールされた熱可塑性層によって注ぎ口が形成され、パックラミネート材料の縁が内容物と接触しないようにされていることからすると、本件発明は、パックラミネート材料のキャリア層に第一の孔を設け、パックラミネート材料の熱可塑性材料の層である熱可塑性層によって注ぎ口を形成して、パックラミネート材料のキャリア層の縁が内容物と接触しないようにした発明であると解釈するのが自然であるということができる。仮に、本件発明において、熱可塑性層でない熱可塑性材料の層が存するとすると、そこには、孔も注ぎ口も設けられていないことになって、いかなるものか不明であるというほかなく、そのようなものが存するという解釈は採り難い。

(二) 証拠(甲一)によると、本件特許請求の範囲第7ないし10項は、本件発明の実施態様項であること、同第7項には、「パックラミネート材料(1)の前記熱可塑性層(3,4,6)」との記載があること、同第8項には、「前記パックラミネート材料(1)の熱可塑性層(6)」との記載があること、同第9及び10項には、「前記パックラミネート材料(1)の内側の熱可塑性層(6)」との記載があることが認められるが、これらの記載は、本件発明の熱可塑性層がパックラミネート材料の一部であることを前提とする記載であるということができる。また、右1(一)(2)認定に係る「この開口構造をガス遮断層を持つパックラミネート材料に用いる場合、高いガス遮断性が得られ、内容物とガス遮断層とが接触するのを阻止できるようになる。」との記載も、本件発明の熱可塑性層がパックラミネート材料の一部であることを前提とする記載であるということができる。

(三) 証拠(乙一、二)によると、「接合」とは、「つぎあわすこと」、「二つの物体を結合させること」を意味するものと認められること、証拠(甲一)によると、右1認定の実施例では、別紙図1ないし3のとおり、熱可塑性層は、キャリア層の両側に直接接するか又は他の熱可塑性層等を介してキャリア層に接して設けられているものと認められることからすると、本件発明の構成要件(三)(1)の「接合」は、熱可塑性層がキャリア層の両側に直接又は他の熱可塑性層等を介して接して設けられていることを意味するものと認められる。そして、右熱可塑性層がパックラミネート材料の一部であれば、キャリア層の両側に右のように接して設けるのが自然であるということができる。

(四) 本件発明の構成要件(四)のパックラミネート材料の外側は、文言だけからすると、原告が主張するように、パックラミネート材料の外側に位置すると解する余地がある。しかし、右の「パックラミネート材料の外側」をパックラミネート材料の外側に位置するという意味に解すると、互いにシールされるべき熱可塑性層がともにパックラミネート材料の外側に位置するという意味に解するのが自然な解釈となるが、そうすると、互いにシールされるべき熱可塑性層がともにパックラミネート材料とは別部材であるということになり、右1(三)のとおり、本件発明が、別部材である内側のカバー層を用いないパック容器の開口構造に関するものであるとと矛盾することになる。また、熱可塑性層がパックラミネート材料の一部であれば、パックラミネート材料の外側に位置することはあり得ないところ、証拠(甲一)によると、右1認定の実施例では、別紙図1ないし3のとおり、互いにシールされた熱可塑性層はパックラミネート材料の一部であって、右熱可塑性層はパックラミネート材料自体の外側部分に設けられており、本件明細書には、これと異なる説明は存しないものと認められる。

(五) 以上述べたところに、右1(三)で述べたところを総合すると、本件発明の構成要件(三)及び構成要件(四)の「熱可塑性層」は、パックラミネート材料の一部をなすものであって、キャリア層の両側に直接又は他の熱可塑性層等を介して接しており、パックラミネート材料自体の外側部分に設けられているものを意味すると解するのが相当であって、本件発明は、このような「熱可塑性層」をシールすることによって、パックラミネート材料のキャリア層の縁が内容物と接触しないようにした発明であると認められる。

(六) しかるところ、被告製品では、窓材(15')は、パックラミネート材料の一部ではなく、キャリア層(2')の上に接合している上部被覆材(3')のさらに上面に設けられているものであって、パックラミネート材料自体の外側部分に設けられていないから、被告製品は構成要件(三)及び構成要件(四)を充足しない。

三  争点7について

本件発明の構成要件(五)の「パックラミネート材料の外部」は、文言の通常の意味からすると、「パックラミネート材料」の「外」を意味し、カバーストリップがパックラミネート材料に接していることを意味するものではなく、本件明細書の記載から、カバーストリップはパックラミネート材料に接していなければならないとまで認めることもできない。

被告製品のカバーストリップ(8')は、パックラミネート材料(1')に接していないが、その外にあって、注ぎ口(7)を覆っているから、被告製品は、本件発明の構成要件(五)を充足する。

四  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 岡口基一 裁判官 男澤聡子)

<以下省略>

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